ライカのクラシックレンズ、ズミタール 50mm f2。
1939年から1953年にかけて約17万本が製造されたロングセラーで、ライカの名玉「ズミクロン」の前身として知られています。
中古市場では「逆光に弱い」「発色がイマイチ」「ぐるぐるボケが出る」などネガティブな意見も聞かれがちですが、実際に使ってみるとその印象は大きく覆りました。
コンパクトで扱いやすく、描写も素直。
そして、なによりこの価格でこの質感と雰囲気を味わえるという意味では、間違いなくコスパ最強クラスのライカレンズです。
ズミタールとは?|クラシックな佇まいと歴史を受け継ぐ名レンズ

ズミタールは、バルナックライカ時代に誕生した沈胴式の50mmレンズ。
ズマール→ズミタール→ズミクロンと続くハイスピードレンズの系譜のなかで、ズミタールはズミクロンの直系の先祖にあたります。

鏡胴上部はマットな梨地仕上げ、下部はサテン仕上げという美しいコントラスト。
時代を感じさせながらも、M型ライカとの相性も抜群です。
豊富なバリエーションと、こだわりの個体選び

長く製造されたレンズだけに、ズミタールには細かな違いが多数存在します。
- 絞り形状:丸絞り or 六角絞り
- 絞り表記:大陸式 or 国際式
- レンズ:ノンコートタイプ or コーテッドタイプ
- 距離表記:フィート表記 or メートル
など、時代によって様々な改良が加えられました。
僕が選んだのは、丸絞り・国際式・コーティングあり・メートル表記の後期型。
市場には玉数も多いですが、条件を絞って探すと「これだ」という個体に出会うのはなかなか難しく、見つけた瞬間に迷わず購入しました。

オールドレンズは一期一会。
「ビビッと来たら即購入」が鉄則です。
70年のときを超えて

製造から約70年。
この小さなレンズは、どれだけの景色を、どれだけの人の記憶を写してきたのでしょう。
いま手元にあるその存在だけでも、なんとも言えない感慨深さがあります。
レンズスペック
- レンズ構成:4群7枚
- マウント:ライカLマウント
- 開放f値:f2.0
- 最短焦点距離:1m
- 重さ:240g
- 製造年:1939-1953年
- 製造本数:171,000本
- 中古価格:5-10万円(2024年現在)
L/M変換リング|M型ライカで使うために必要なもの

ズミタールはLマウント(スクリューマウント)のため、M型ライカで使うにはL/M変換リングが必要です。
注意点としては、安価な海外製リングでは無限遠が出ないこともあるため、信頼できるメーカーのものを選ぶのがおすすめ。
RAYQUAL(レイクォール)、ケンコー、フォクトレンダーあたりなら安心して使えます。

僕も長年フォクトレンダー製を使っていましたが、ある日ライカ純正リングをお得に見つけ、迷わずゲット。
このあたりの純正アクセサリーも、状態の良いものは年々入手困難になってきているので、「見つけたら買う」精神が大事です。

L/Mリングを手に入れたタイミングで、レンズフィルターやキャップなど周辺アイテムもまとめて購入しました。
なかでも嬉しかったのが、前から憧れていたライツ時代の卓上三脚「TOOUG」と自由雲台「FOOMI」のセット。
相場の半分から1/3ほどの価格で見つけられたのは、まさに運命的な出会いでした。

旧E.LEITZロゴのレトロな雰囲気と、美しい結晶塗装。
見た目だけでなく、軽い力でもしっかり固定できる実力派で、今後の旅行で使うのがとても楽しみです。
ズミタールはフィルター選びに注意

ズミタール(Summitar 50mm f2)のレンズ径は、一般的なフィルター径とは異なる36.5mm。
さらに前玉が大きく湾曲しているため、通常のフィルターでは干渉してしまいます。
僕が選んだのは、ケンコー・トキナーから販売されているズミタール専用の36.5mmフィルター。
質感や仕上げがオールドレンズとよく馴染み、相性は抜群です。
唯一惜しかったのは、フィルター枠に記載された商品名のロゴが少し目立つ点。
もう少し控えめなデザインであれば、より完璧だったかもしれません。
手持ちの50mmレンズをズラリ比較

記念撮影を兼ねて、手持ちの50mmレンズたちを並べて比較してみました。
左から順に「ズミクロン 50mm f2 1st M」、「ズミタール 50mm f2 L」、「エルマー 50mm f3.5 L」、「コニカ ヘキサノン 50mm F2.4 L」です。
どのレンズもクラシカルで個性があり、並べるだけでも眼福です。
個人的には、ズミタールの造形が最もスッキリしていて、バランスも良く見えました。
派手さはないけれど、静かに美しい。
まさに“通好み”の一本です。
見た目の比較だけでなく、それぞれのレンズで実写して描写の違いを比べてみるのも面白そうです。



ズミタール 50mm f2の実力は?
ライカ M2 初期型とフジカラー100の組み合わせで撮影してきました。

ズミタールがズミクロンやエルマーに比べて評価が低めに見られるのは、おそらくガラス面が柔らかく、傷が多い個体が多いためではないでしょうか。
本来の性能を活かせていない状態のレンズが、世間の印象を下げているのかもしれません。
しかし、ガラス面がクリアで、しっかり整備された個体ならその実力は見違えるほど。

実際に撮影してみたところ、f5.6〜8あたりまで絞るとシャープネスがしっかり出て、発色も非常に良好でした。
正直、ここまで写るとは思っていなかったので、現像データを見て思わず声が出ました。



光と影のコントラストもきれいで、春には花粉を飛ばして困る杉林でさえ、雪が積もって陽光が差し込むと神々しい風景に変わります。

澄んだ朝の空、冷たく張り詰めた空気、そして雪の質感。
どれもレンズがしっかりと描き出してくれました。

一点だけ気になったのは、絞りリングにクリック感がないこと。
そのせいで、撮影中に絞り値が意図せず動いてしまうことが何度かありました。
とはいえ、70年以上前に作られたレンズ。
こうした不便な部分も含めて楽しむのが正解かもしれません。
神経質になりすぎず、寛容な気持ちで付き合っていきたい一本です。

こちらは、絞りをf2.8に設定して撮影した一枚です。
背景のボケが少しざわついていて、まさにズミタールならではの描写が垣間見えました。
この独特な滲みやクセのあるボケ味は、うまく使いこなせば被写体に個性を与えてくれるはず。
こうした特性を理解して撮影すれば、表現の幅がさらに広がっていきそうです。
まだ逆光での描写テストはしていないので、どんな光の表現を見せてくれるのか、今から試すのが楽しみです。
まとめ:ズミタールは“美しい過去”を今に写すレンズ
ズミタール 50mm f2 は、決して“完璧”なレンズではありません。
しかし、そのちょっとした癖や描写の揺らぎが、写真にあたたかさや深みを与えてくれる。
軽くて、コンパクトで、しっかり写る。
そして何より、手にした瞬間に感じる「70年前の物を使っている」というロマン。
ズミタールは、オールドレンズの世界に一歩踏み込んでみたい人にとって、最高の入り口かもしれません。