フィルムカメラの人気再燃とともに、コンパクト機でも高級モデルが注目されています。
中でもコンタックス T2やT3はその写りの良さと洗練されたデザインから圧倒的な人気を誇りますが、その価格はすでに15万円超え。
中古市場ではライカを超えるほどの値がつくこともあり、なかなか手が出せないという方も多いのではないでしょうか。

そんな中で、あまり知られていない“第三の選択肢”としておすすめしたいのが「コンタックス TVS(ティーブイエス)」です。
T2やT3と同様のツァイスレンズを搭載し、金属外装の上質なつくり。
ズームレンズゆえの扱いやすさや価格面でも魅力があり、T2やT3に手が届かない人だけでなく、むしろ積極的に選ぶ価値があるカメラです。
本記事では、実際にTVSを使って撮影した作例や使用感をもとに、その魅力と使いこなしのポイントを詳しくレビューします。
コンタックス TVSとは? その特徴とスペック

コンタックス TVSは、カールツァイスのバリオ・ゾナー(Vario Sonnar)を搭載した高級コンパクトフィルムカメラ。
今でこそT2やT3が高級コンパクトカメラの代名詞になっていますが、当時のフラッグシップ機はこのTVSなのです。

T2やT3が単焦点なのに対し、TVSは28〜56mmのズームレンズを搭載しており、スナップから風景、ちょっとしたポートレートまで幅広く対応できます。
開放F値こそf3.5-6.5と控えめですが、発色の美しさとシャープさは一級品。
使い勝手のよさと描写力、そして比較的手の届きやすい価格。
そのバランスの良さが魅力です。
もちろん「単焦点の潔さ」も魅力的ですが、ズームの自由度は旅先や日常のちょっとしたシーンで本当に助かる。

静かに動くズームリング、しっかりしたシャッター音、手に持ったときの重みと質感も素晴らしく、所有欲を満たしてくれます。
「高級コンパクトが欲しいけど、T2やT3はちょっと高いな…」という人にとって、TVSはまさにぴったりのカメラ。
しっかり撮れて、持っていて満足できて、でもちょっとマニアックで、周囲とかぶらない。
この距離感がちょうどいいんです。
コンタックス TVSのスペック
- 発売年:1993年
- レンズ:Carl Zeiss Vario-Sonnar 28-56mm f3.5-6.5(6群6枚)
- フォーカス:AF/マニュアルフォーカス
- 露出モード:絞り優先AE、プログラムAE(露出補正可)
- ファインダー:実像式ズームファインダー
- 絞り:f3.5~16
- シャッタースピード:1/500~16秒(絞り優先AE)、1/700~16秒(プログラムAE)
- フィルム装填:オートローディング式
- フィルム巻き上げ:自動巻き上げ
- サイズ:約123×67×41.5mm
- 重量:375g(電池含まず)
- 電源:CR123AまたはDL123Aリチウム電池×1本
- その他:セルフタイマー、露出補正、パノラマ撮影
操作性は?オートだけじゃない楽しさ

TVSは基本的にフルオートで撮れるカメラですが、露出補正やフォーカス距離の指定(MFモード)もできるため、「撮ってる感」をしっかり味わえるのもポイント。
ズームはレンズ鏡胴にある小さなダイヤルで操作するため初めは苦戦しますが、慣れると撮影もスムーズに。

また、露出補正も±5段階と意外に細かく設定でき、逆光や明るい空、雪景色などにも柔軟に対応可能です。
細かな操作にこだわりたい人にも、ある程度は応えてくれる設計になっています。
CONTAXというブランドと京セラの関係

コンタックスは、1930年代に誕生したドイツの高級レンジファインダーカメラのブランド。
戦前〜戦後にかけてライカと並ぶ名機を多数生み出し、プロ・アマ問わず高い評価を受けてきました。
その後、1970年代に入りカメラ事業を中止してしまいましたが、日本のヤシカとライセンス契約を締結したことで復活。
1983年にそのヤシカを吸収合併した京セラに、コンタックスブランドが引き継がれました。
京セラ製コンタックスは、電子制御やチタン外装、AF機能など時代に合わせた進化をしながらも、ツァイス製レンズによる高品位な描写を武器に、一貫して「高級カメラ」としての位置を守り続けました。
コンタックス TVSもその流れの中で誕生した一台で、「ツァイスの描写をコンパクトに楽しめるカメラ」として、今なお根強いファンを持ちます。
現代においてはT2・T3やGシリーズに比べ知名度はやや低いものの、性能面ではまったく引けを取らないどころか、コンタックスブランドを代表するハイスペックカメラなのです。
コンタックス TVS × FUJIFILM 400で撮る万博スナップ|高級ズームレンズの実力とは?

今回の作例は、「コンタックス TVS」にFUJIFILM業務用400を装填し、大阪・関西万博をぶらりスナップ撮影したもの。

すべてプログラムAE(オートモード)で撮影し、露出補正も一切なし。
まさに“カメラ任せ”の条件で、CONTAX TVSのポテンシャルを試す実地テストのような位置づけです。

この撮影であらためて感じたのが、ズームレンズならではの柔軟な撮影スタイルの魅力です。



広角域ではパース感を活かしたダイナミックな構図が可能で、人の流れや建築のスケール感を強調した撮影ができました。

一方で、ズームして標準域に切り替えれば、距離をとって静かにスナップするような撮影にもフィット。

場面や被写体に応じて自然に距離を変えられるのは、単焦点にはない大きなアドバンテージだと実感しました。

現像された写真を見て印象的だったのは、コントラストの強さと色の深み。

FUJIFILMのフィルムが持つ自然な発色に、ツァイス「バリオ・ゾナー」レンズの描写力が重なり、どこか映画のワンシーンのようなドラマチックなトーンに仕上がっていました。


逆光時のコントラストの低下は多少ありますが、致命的な破綻はほとんどなし。
逆光耐性も高く、光の捉え方に奥行きを感じさせる表現力がある点も評価できます。


「ズームレンズ=描写が甘い」という先入観を持つ方もいるかもしれませんが、コンタックス TVSはまったく別。

広角から標準域までヌケの良いクリアな描写が一貫していて、人混みのざわめきも、夕暮れの空気の揺らぎも、丁寧に写し取ってくれます。

そして特筆すべきは、暗所や夜間でも驚くほど正確なピントと露出。

屋内の薄暗い場所や夜の会場内でも、ディティールを損なわずにきちんと写っており、30年前のコンパクトフィルムカメラとは思えない安定感があります。
まとめ:T2・T3とは違う魅力。CONTAX TVSは“ズームで選ぶ高級コンパクト”の最適解

T2やT3に比べると、知名度では一歩譲るコンタックス TVS。
しかし、実際に使ってみるとその“通好み”とされる理由がよく分かります。
ズームレンズ搭載だからこそ得られる柔軟なフレーミングは、単焦点機では撮れない瞬間に出会わせてくれます。
描写力・操作性・サイズ感のバランスがとても良く、高級コンパクトカメラの本質的な魅力が凝縮された一台です。
気軽に持ち出せて、それでいて写りに妥協がない。
使えば使うほど「これは手元に置いておきたいカメラだ」と感じられるでしょう。
価格もT2やT3ほど高騰しておらず、比較的手が届きやすいのも魅力のひとつ。
最近はその実力が再評価され、じわじわと人気が高まっているのも頷けます。
初めての高級コンパクトカメラを探している方にも、T2やT3とは違う選択肢を求めている方にも、CONTAX TVSはきっと“使う楽しさ”を教えてくれる名機になるはずです。